栄養素が代謝を活性化させ、元気にする

疲れを解消するには、細胞やタンパク質を傷つける活性酸素の発生を抑え、代謝を助ける栄養素をとって疲労回復システムを修復することが必要です。スムーズに稼動すれば、疲れにくくなり、過労予防にもなります。そこで注目されるのが、右の図にあるような栄養素です。

エネルギーを増大させ、抗疲労に効く栄養素

■ビタミンB1とα-リポ酸は代謝のサポート役

ごはんやパンなどの炭水化物は、呼吸からとり入れた酸素を使ってエネルギーとなります。その過程で、ビタミンB1の助けが必要となります。ビタミンB1が不足すると、どんなに炭水化物だけを食べてもエネルギーに変えることができません。
 α-リポ酸はビタミン様物質で、やはり炭水化物の代謝を促進させるほかに、活性酸素を防ぐ抗酸化作用があります。α-リポ酸が少なくなると、糖がエネルギーとして代謝されず、肥満の原因にもなります。抗酸化作用はビタミンCやEの数百倍もあるとされ、抗疲労の強力な助っ人です。

■脂肪の分解を促すパントテン酸

桜えびやほうれん草などに含まれているパントテン酸はビタミンB2と協力して脂質の分解を促し、エネルギーに変える必要不可欠のビタミンです。ビタミンB2は納豆や牛乳に含まれています。

■分解物をエネルギー回路に運ぶL-カルニチン

L-カルニチンは脂肪燃焼系アミノ酸で、エネルギー工場のミトコンドリア膜を通過するために必要な物質です。ミトコンドリアは細胞内にある粒状のような細胞小器官で、エネルギー(ATP)をつくりだす発電所のようなものです。糖質や脂肪からエネルギーを産出する器官で、分子の大きな脂肪酸はそのままでは通過できず、L-カルニチンと結合して初めて通ることができます。L-カルニチンは、仔羊やかつお、赤貝などに多く含まれています。

■クエン酸(TCA)回路をスムーズに動かすクエン酸

人には体を動かすためのエネルギーをつくるシステムが備わっています。TCA回路と呼ばれるもので、細胞の中にあるミトコンドリアによって酸素を使って行われ、エネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)がつくられます。糖質や脂質は、アセチルCoAという物質になってTCA回路にとり込まれますが、これだけでは、回路はスムーズに動きません。
 TCA回路は、アセチルCoAがオキザロ酢酸やピルビン酸など8つの酸に分解される過程で、エネルギーをつくりだします。その最初の段階でアセチルCoAはオキザロ酢酸と反応します。ところが、このオキザロ酢酸は不安定で、不足しがちな酸なのです。足りなければ、回路がうまく回らず、さびついて効率よくエネルギーをつくりだせません。
 そこで、強い味方になってくれるのが、クエン酸なのです。クエン酸は、酢やかんきつ類に多く含まれている成分ですが、クエン酸にはオキザロ酢酸を増やす作用があり、滞った回路の動きをスムーズにする“はね車”の役割をしてくれます。

■栄養をエネルギーに変えるコエンザイムQ10(CoQ10)

糖質、脂質、タンパク質に含まれている水素は、ミトコンドリアの電子伝達系に運ばれていき、呼吸からとり入れた酸素を使って水になります。その際に栄養素から大量のATPに変えてくれるのがCoQ10です。人の体に含まれている補酵素ですが、加齢と供にともに減少します。不足するとエネルギーの産出に支障が出るので、食べものから補うことが大切です。いわしやほうれんそうなどに多く含まれます。
 またCoQ10は抗酸化作用を持ち、細胞膜の酸化を防ぎ、酸素の利用効率を高めます。

■活性酸素を除去するイミダゾールジペプチド

イミダゾールジペプチドは、人や動物の骨格筋にある2つのアミノ酸総結合体で、渡り鳥が長時間翼を休めず飛び続ける原動力となっています。鶏の胸肉などにも多く含まれ、私たちの研究から強い抗酸化作用と疲労を軽減する効果を実証しました。
 このほか、かんきつ類に含まれるイノシトールは、細胞膜を構成するリン脂質の大切な成分です。タンパク質からつくられるアミノ酸をエネルギーに変えるビタミンB6も、細胞を活性化するのに大切な栄養素です。神経伝達物質をつくるアミノ酸のトリプトファンやチロシンも欠かせません。

人間の細胞の中で栄養素がエネルギーになる仕組み

上手な食材選びで疲労と老化の加速にストップ

上手な食材選びで疲労と老化の加速にストップ

疲労も老化も、悪玉である活性酸素によって引き起こされます。メカニズムは同じですが、活性酸素が細胞を酸化させ、一時的に傷つけてしまうのが疲労、細胞の傷を残したままにしているのが老化です。
 疲労を解消しないままいつまでもひきずっていると、さらに細胞が傷ついてしまい、老化を加速させることになってしまいます。若い人でも疲れを蓄積している人は、男女に限らず年齢より老けてみえることがあります。これは、老化が進んで細胞がさびついたり、壊れているためです。
 こうならないために、とにかく代謝をよくして細胞を活性化させ、疲れをとりましょう。ここまでお読みになったみなさんは、疲労のメカニズムや抗疲労に役立つ栄養素を知ったはずです。あとは食材を選ぶだけです。
 食べ物には必ず、栄養素が含まれており、どれもが健康な体をつくる源になっています。三大栄養素と呼ばれているタンパク質、脂質、炭水化物は、ビタミンやミネラルによってスムーズに働いています。このため、これらは総じて五大栄養素と呼ばれています。これらに前にご紹介した抗疲労に有効な栄養素をバランスよくプラスしてください。
 栄養素について知ることで、適切な食材を日常の食事にとり入れて、疲労と老化の加速にストップをかけることができるのです。

疲労に対抗できる栄養をバランスよく

疲労に対抗できる栄養をバランスよく

疲労の原因である活性酸素の害から体をまもるには、抗酸化物質を十分にとる必要があります。
 ビタミンB1(うなぎ、かつおなど)、α-リポ酸(じゃがいも、トマトなど)、パントテン酸(豚のレバーや子持ちかれいなど)、L-カルニチン(ラム肉、かつおなど)、クエン酸(レモン、グレープフルーツなど)、CoQ10(牛乳、いわしなど)、イミダゾールジペプチド(かつお、まぐろ、鶏胸肉など)はどれも抗酸化作用があります。
 ただし、一つの栄養素だけで効果があるというものではありません。栄養素は単独で役割を果たすのではなく、それぞれがお互いに助け合ったり、影響し合ってパワーを発揮します。一つの栄養素に限らず、抗疲労に有効な栄養素を色々と組み合わせて、バランスよくとりましょう。
 また、体の構成に欠かせない肉や大豆などに含まれるタンパク質は、毎日欠かさずにとるようにこころがけてください。代謝に不可欠な酵素や免疫の抗体なども、タンパク質が主材料になっています。エネルギー源としても大切です。動物性、植物性のタンパク質をバランスよくとりましょう。

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