2013/09/19

『・・・大阪という大都市で、健康ビジネスを展開する知の拠点となるべく、大阪市立大学が相当に入れ込んでおります。・・・』

一般公開シンポジウム「明日のあなたの健康は?-健康科学イノベーションを加速する!!-」(9/16開催)でご講演いただいた、日経BP社の宮田様。以下関連記事をあげていただいております。

引用元:日経バイオテクONLINE 「WMの憂鬱」Vol.1932

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Wmの憂鬱、人口10万の都市と大都市の健康科学の差は何か?【日経バイオテクONLINE Vol.1932】
2013年9月17日
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皆さん、お元気ですか。
・・・中略・・・
 9月16日は梅田の北ヤードに新しくできたグランドフロント大阪で、大阪市立大学健康科学イノベーションセンターが7月に開所、それを記念した講演会に参加して参りました。ここでは大阪という大都市で、健康ビジネスを展開する知の拠点となるべく、大阪市立大学が相当に入れ込んでおります。高齢化社会のもう一つの側面は、地方の過疎化と都市への人口集中にもあることを忘れてはなりません。人口10万都市に加えて、政令指定都市(人口70万以上)における高齢化・健康増進手法の開発も必要となるのです。地方に残存する絆社会に対して、人々がまるで砂漠の砂のような無絆状態で存在する大都市で、新たな絆の結び直しをどうしたら良いのか?早急に私たちは智恵を絞らなくてはなりません。
 大阪市立大学の切り札は疲労の計測でした。唾液中の特定の血清型のヘルペスウイルス測定から、交感神経と副交感神経のバランス(脈波計測)まで、今まで蓄積してきた疲労研究をここで市民の参加を得て、実証しようという研究が始まりました。大都会で暮らした人ならほとんどが直面する疲労感を中核に、疑似コミュニティを創設。こうしたコミュニティに健康を測定する場やイベントなどで健康を実感する場を提供、尚且つ、疲労度と健康情報、加えて疲労予防などの介入による変化を時系列に沿ってデータベース化することで、絆を形成しようとしています。
 さすが大阪だと思うのは、こうした市民協力による“疲労コミュニティ”と産学連携を融合させて、疲労回復食品やグッズ、疲労予防サービス、疲労予防空間などを積極的に商品化しようとしていることです。公共性に対するバランスさえ取れれば、大都市では資本主義の精神である利益追求が健康を提供するエンジンとなる可能性は否定できません。大いなる実験として注目に値するでしょう。但し、是非とも徹底的に科学性を追求していただきたい。エビデンスに懸念が生じるようでは、そこいらにある健康食品となんら違いがなくなります。ディオバンの臨床研究データ操作疑惑で、国民の大学の臨床研究に対する思いは、信頼どころか呆れられている状況です。パラメーターの曖昧さが大きく、しかも個体差が大きい健康科学では、通常の医学研究以上のプロトコールと生物統計処理の厳密性が問われます。大阪駅に近接したショッピングゾーンのど真ん中に開設し、市民と積極的に交わることを決断した大学だからこそ、科学の厳密さも示さなくてはなりません。是非とも生物統計家などを充実して、大都市モデルの健康科学の事業化プロセスを開発していただきたいと願っております。
 16日には日本版NIHの議論もありましたが、米国の本家NIHがNational Institute of Healthであるならば、このままでは日本はNational Interference with Healthになりかねない という懸念を表明いたしました。米国は研究機能を備えておりますが、2014年度に発足される日本版NIH、独立行政法人日本医療研究開発機構(仮称)には、現在のところ150人分の人件費が予算化される見通しです。これは研究機能ではなく、研究管理機能がこの組織の実態であることを現しています。現在、科学振興機構や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、医薬基盤研究所などが、医療・健康分野に研究費を提供・管理している組織が集約化されたものだということです。極端に言えば、予算執行・管理事務的統合であるということです。勿論、このことすら前政権は実現できなかったので、大いなる進歩であることは間違いありませんが、本当に頭脳なき、身体だけ整備して、わが国の医療や生命科学研究は世界と競争可能なのでしょうか?猛烈に効率的な資金配分システムが、米国のデッドコピーのような研究プロジェクトを展開するという愚を犯さないでしょうか?
 動き出した日本版NIH構想に魂を入れるためには、イノベーションとクリエーションを明確に区別した科学政策の策定が不可欠であると考えております。米国はNSF(米国国立科学財団)とNIHの二本立てで、医学やその基礎である生命科学研究を支援しています。この際、わが国の生命科学研究と医学研究全体の調整を図る必要があると考えています。小手先の変化は歪みを生じることを肝に銘じなくてはなりません。
 皆さん、どうぞお元気で。
日経バイオテクONLINE Webmaster  宮田 満